テレビ番組に精通するライターの前川ヤスタカが、地方番組に注目し、レビューしていく。今回は北海道・札幌テレビ(STV)で放送されている「ブギウギ専務」を取り上げる。
放送時間の多くの変更…“流浪の番組”「ブギウギ専務」
「毎度お馴染み流浪の番組、タモリ倶楽部でございます」
そうやって始まる「タモリ倶楽部」は放送枠という意味では実はそんなに「流浪」ではない。1982年の番組開始以来約40年、一貫して金曜24時台の時間帯を維持している。
そういった意味では「流浪の番組」のサブタイトルは、この番組にこそふさわしいのかもしれない。北海道・札幌テレビ(STV)の「ブギウギ専務」のことである。
番組開始の2007年から2012年は水曜深夜24:30前後開始の30分番組だったが、2012年には単独番組としては終了し、日曜のローカル番組「マハトマパンチ」の1コーナー「ブギ専punch」へ格下げ。さらに翌2013年にはそれも終了し、同「マハトマパンチ」内のわずか15分のコーナー「流れ星雁太郎」に格下げ。そんな番組として瀕死の状況から、2015年には土曜深夜の単独番組として奇跡の復活を果たした。そして2016年からは日曜夜中に移動し、来月2021年10月からは金曜深夜にお引っ越し。まさに流浪の番組。
地方番組はキー局の編成の影響を受けるので、放送時間が途中で変わるケースは少なくないが、ここまでコロコロと変わるのはあまりないだろう。
そんな流浪の番組「ブギウギ専務」は、架空のPR会社「(有)上杉ポンプ商会」の社員達が様々な企画に取り組む番組である。主役の「ウエスギ専務」は、バンドTHE TON-UP MOTORS(2016年に無期限活動休止)のフロントマンである上杉周大。そしてその相棒である「おおち係長」はダイノジの大地洋輔だ。
番組開始当初は専務や女性秘書を中心に比較的和やかな企画が多かったが、徐々に企画は過酷さがエスカレート。道ゆく人々の出身校に実際に行くことを繰り返して、最終的に上杉専務の母校を目指す「ウエスギ専務母校への道」など、行き当たりばったりの企画に振り回される専務を楽しむ番組となっていった。
極め付けは函館から稚内までの北海道縦断850km、奥尻から根室まで北海道横断800kmをすべて徒歩で踏破した「ブギウギ奥の細道」。時にヒグマに怯えながらの徒歩旅は過酷そのもので、数々のドラマを生んだ。
ウエスギ専務こと上杉周大は、上述の通り元々北海道出身のバンドマン。頬にはみ出すもみあげと爬虫類っぽい顔が特徴で、ボーカリストならではのソウルフルな声が魅力だ。近時、番組企画で衣装が変わったが、それまでは上下スパンコールで覆われたシルバーのスーツに真っ赤なシャツがトレードマークだった。
そもそもこの番組は、上杉が札幌テレビのローカル音楽番組にバンドとして出演した際、何とか爪痕を残そうと必死になっていたところ、たまたま撮影現場にいた後のブギウギ専務スタッフが気に入り「あいつで番組をやりたい」となったのがきっかけである(Wikipediaではラジオ番組で上杉自身がやりたいと言ったことになっているが、本人が複数回否定している)。
番組も14年の歴史を数え、上杉も北海道では知らない人がいないほどのローカルスターだが、実は番組開始以後ほとんどの期間、基本的に東京に住んでいる。元々当初番組オファーを受けた時点ですでにバンドマンとして上京が決まっており「それでも、どうしても上杉じゃなければ」というスタッフの熱意で受けたのがこのブギウギ専務なのである。
上杉としては、本来音楽で有名になりたかった本人の夢と、ローカルタレント「専務」として有名になることのギャップに悩んだ時期もあったというが、「奥の細道」あたりから「両方自分」と胸を張れるようになったと雑誌インタビュー等で語っている。