長らくテレビを見ていなかったライター・城戸さんが、TVerで見た番組を独特な視点で語る連載です。今回は「マヂキタ大草原」(テレビ東京)をチョイス。
恐怖が、いつしか郷愁に変わり、ある日突然、恐怖に戻る…インターネット・ホラー「マヂキタ大草原」
※太字で表しているのはホラーコンテンツの固有名詞です。検索する際はご注意をお願いします。
私は、友人に「一番好きな”検索してはいけない言葉”は何ですか?」という質問をすることがある。好きとかはない、と言われてしまうこともあるが、ふと思ってもみない絶妙なラインを突かれたりすることがあって、めちゃくちゃ面白い。私は非常にやっかいな人間なので、身の上話や恋バナなんかより、インターネット・ホラーの話をずっとしていたいのだ。電子画面で幾度となく目にしていた文字列が、人との対話によって発されるとき、まるで空のように、私たちは同じものを見ていたんだなあ、というような気持ちになる。恐怖が、いつしか郷愁に変わり、ある日突然、恐怖に戻る。これが私のインターネット・ホラー。
マヂカルラブリー・野田クリスタルと、真空ジェシカ・川北茂澄のふたりがインターネット文化をゲストに教えていくという番組『マヂキタ大草原』の第3回、ネットで流行したホラーコンテンツを懐かしみまくる『ネットにホラーは憑き物』という企画。これがたまらんかった。懐メロ番組を見ているような感覚。あったなーとか好きだったなーとか思いながら”倉敷蓋事件”とか”赤い部屋”なんかが紹介されていくのを眺めていると、だんだんとテレビを見ているような気がしなくなってくる。地上波で”ジングルベル逆再生”が扱われるなんて誰が予想しえただろうか。馴染みの深い固有名詞が次々並んでいくことに興奮する一方、何も知らぬ芸人やタレントが、ジングルベル逆再生をはじめとするビックリ系Flashをくらわされていたのには本気で同情してしまった。私があれをされたら本気で暴れる。私は、インターネット・ホラーは大好きでも、怖いものが大の苦手だという矛盾を常に抱えているのだ。
ホラー系コンテンツは「怖い!怖すぎる!嫌だ!助けてくれーー!!!」と叫びながら消費していたし、”青鬼”も怖すぎて、無音にして腕を伸ばしてパソコンから最大限に距離を取って薄目でプレイしていた。検索してはいけない言葉たちも、それらの概要についてはよく知っているのだが、実際に自分で検索してみたことは無い。怖いからだ。小学生の頃、パソコンを持っている友達と一緒に赤い部屋を見て震え、さらに意地の悪い友達に「間違い探しやろうぜ」ってびっくり系Flashを見せられ、うわあっと驚いた次の瞬間には友達の家を飛び出し、全速力で自転車を漕いで家に帰ったのを覚えている。あの時の、あの恐怖が、まだ胸にこびりついているのだ。もしかしたら、私が検索してはいけない言葉の概要だけを読み漁っていたのは、決して楽しんでいたのではなく、身を守るための無意識の行動だったのかもしれない。インターネットは悪意の塊、敵を知らねば防御をすることもできない。
怖いだけでなく、時に不快で、不愉快なインターネット・ホラーだが、私の身体は常に、恐怖と郷愁の両方を求めている。誰か一緒に”You are an idiot”を歌おう。ていうかこの番組うらやましすぎましたね。俺も出演して一緒に喋りたい。倉敷蓋事件の現場に行ってみたりしてて、本当に楽しそうだった。本当にうらやましい。