青沼の診断に源内が声を荒らげる
源内は青沼を呼び出し、自身の体にあるあざを見せる。青沼が険しい顔をしながら「梅毒」だと診断すると、源内は「やっぱりか…」と悲しみながらもどこか覚悟をしていた表情を浮かべた。こちらも覚悟をしていたがその事実はつらい。
青沼に「蘭学なら治せる?」と聞く源内は、いつも通りに明るく振る舞っていた。それでも梅毒への恐怖や治せないことへの絶望は隠せておらず、次第にその表情が変化していく。静養すれば急激に悪化することも、すぐに死ぬこともないという青沼に、「生きているだけじゃだめなんだよ!」と声を荒らげた。
源内にとって梅毒で精神状態が普通ではなくなるということは、自分らしく生きられなくなってしまうことと同義。理不尽な現状への悔しさと死の恐怖で泣く源内を、青沼はただ抱き締める。友の心に寄り添うために、青沼ができることはそれしかなかったのだろう。
意次の言葉が源内を動かす
青沼に「死にたくない」と泣きながら訴えていた源内だが、思い人である意次の前では梅毒を理由に泣くことはなかった。青沼だけには本音を伝えられてよかったなと思うのと同時に、好きな人の前では格好をつけていたいという本来の源内らしい姿に少しほっとする。
意次は全てを知りながらも梅毒の話に一切触れることなく、源内にある書状を手渡す。その内容は、「女子蘭学の禁を解く(=女性も蘭学を学べるようになる)」というものだった。意次からの褒美に感謝する源内へ意次は「平賀源内が居たからです」と、源内のこれまでの行動にねぎらいの言葉を向ける。
その言葉を聞いた源内は、「死の恐怖」で折れかけていた心を捨て、再び意次のために、そして自分らしく生きるために、最後まで動き続ける決意をしたのだろう。その目にはもう「死の恐怖」はなく、シーンが変わった瞬間には、旅に出る源内の姿が映し出されていた。
自分らしく生き抜いた源内
平賀源内の最期は諸説あるが、悲惨な最期だったと記憶している。しかし、「大奥」の源内の最期は悲惨ではなかったように思う。
源内は梅毒で苦しみ、目も見えなくなってしまったが、源内が最も恐れていた精神状態が普通ではなくなることだけにはなっていなかった。その上、黒木(玉置玲央)が源内のためについた“優しいうそ”によって見たかった未来を見ることができ、幸せな気持ちで最期を迎えたはずだ。
これまで理不尽なことは多々あったが、源内の人生は無駄なものではなかったし、不幸でもなかったように思う。どんなに理不尽な目に遭っても、源内の心にともった「赤面撲滅」という思いは消し去ることはできなかったし、源内は自分らしく生き抜いた。
X(旧Twitter)では、源内の死を悲しむ声が上がる一方で、最期を迎えるまでの間、ずっと自分らしく生きた源内の姿に「格好よすぎる」「源内だからできたこと」という声が多く寄せられていた。
◆文=ザテレビジョンドラマ部
NHKエンタープライズ
発売日: 2023/08/18