「グッバイ・ガール」は、私にとって初めて尽くしの舞台で今でも定期的に思い出す作品。本番にオーケストラで生演奏する舞台の場合、稽古場ピアノで歌の稽古をする、本役があってもアンサンブルとしても舞台に参加する、ウィッグのネットは自分で被りピンを刺すーー。
中でも一番苦戦したのはダンスだ。振り付けの先生から「あなたの踊りはまるでアイドルみたい。ステージのダンスではないわ」と言われたときの衝撃と恥ずかしさは今でも忘れられない。これまでのダンス経験がなければよかったと思ったことは一度もないが、その経験自体が通用しない、むしろ枷になってしまう場所があることをこの時初めて知った。
苦戦しながらも、たくさんの方にご指導いただきながら迎えた最終稽古の日。
「僕にとって舞台は航海と同じ。座組のことをクルーというのも、航海だからだ。ここから一カ月の公演期間、長旅にはなるけど荒波もこの座組、クルー一同で乗り越えましょう」
マキノさんからいただいたこの言葉は、私にとって舞台を続けるきっかけになっている。マチネ、ソワレ、上手、下手。知らなかった言葉の中にあった“クルー”という高校生の私でも知っている単語。この言葉のおかげで大変な稽古も、これからの公演も、どんな荒波が来ても「せっかくの航海なのだから楽しまなきゃ」と思えるようになった。
舞台のセットも回転式で小道具もレトロな雰囲気が可愛く、音楽もワクワクするものが多かったが、本作は配信がなくDVDにも収録されていない。だからこそ、私たちクルーとお客さんだけが見返すことができる特別な航海日誌のような存在になっている。
そして、この舞台をたまたま観てくれた事務所の方から、「君は舞台に立つとキラキラするから絶対に舞台に立つことを諦めたらダメだよ」と言っていただいたことで、今に至るまで舞台に立つことを大切にしようと思い続けられている。本作での私の役は、特段目立つものではなく、出番のトータル時間も5分弱だったにも関わらず、私の芝居を覚えていてくれて、私に言葉を届けてくれたことが嬉しかった。
何がきっかけで続けようと決心するかなんて分からないからこそ、きっかけを見逃さずに挑戦することが大切なのだと学んだ、声優をまだ目指していない頃の私の思い出。
佐藤日向エッセイ連載#2「担任の先生」は4月21日(日)更新予定です。「わたしことば」次回もお楽しみに!
佐藤日向プロフィール
さとう・ひなた●12月23日、新潟県生まれ。2010年12月~2014年3月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして活動。卒業後、声優としての活動をスタート。主な出演作に『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)、『ラブライブ!サンシャイン‼︎』(鹿角理亞役)、『D4DJ』(福島ノア役)、『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(暁山瑞希役)、『ウマ娘 プリティーダービー』(ケイエスミラクル役)など。ニコニコチャンネル「佐藤さん家の日向ちゃん」毎月1回生配信中。公式SNS
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