「ヴェノム」、「運び屋」が教えてくれる“ありのまま”でいることの難しさと価値<ザテレビジョンシネマ部>
映画アドバイザー・ミヤザキタケルがおすすめの映画を1本厳選して紹介すると同時に、併せて観るとさらに楽しめる「もう1本」を紹介するシネマ・マリアージュ。
第10回は、家族との関係を修復できぬまま過ごしてきた男の転落と再生の実話を基にした『運び屋』(12月29日[日]夜9:00 WOWOWシネマほか)と、謎の生命体に寄生された男の戦いを通し、たったひとりでも理解者がいてくれることの救いを描いていく『ヴェノム』(12月23日[月]午後0:30 WOWOWシネマほか)をマリアージュ。
『運び屋』(2018)
麻薬密輸で老人レオ・シャープが逮捕された全米驚愕の事件に着想を得た物語。俳優引退をほのめかしていたクリント・イーストウッドが監督&主演を務め、麻薬の運び屋となった主人公アール・ストーンとその家族の関係性を通し、“ありのまま”でいることの難しさと価値を映し出す。
物語冒頭、花のアップが映し出される。それは園芸家であるアールのなりわいを示すのと同時に、作品の根幹を成すとても重要なことをも示していた。花が美しいのはなぜか。それは“ありのまま”だからだと思う。
灼熱の暑さにさらされても、強風に吹かれても、雨に打たれても、行き交う人々に踏まれても、花は何も語らずただそこにあり続けている。やがて枯れゆく運命であろうとも、限られた時間や命を懸命に生きている。だからこそ、美しい。僕たち人間の場合はどうだろう。常日頃“ありのまま”でいられるだろうか。
ささいなことで揺れ動き、他人の目や評価にとらわれてばかりで、嘘で塗り固められた人生を生きてはいないだろうか。本作の冒頭10分で描かれるのは、花とは相反してしまいがちな人の心のあり方。
見えや虚勢を張り続け、家族をないがしろにしてきたアールが徐々に転落し、家も仕事も失った末に麻薬の密輸に手を染めるまでの姿。この時点で、本作がどういったテーマを扱おうとしているのか、みごとに伝わってくるに違いない。