僕の母親の口癖をヒントに書いたセリフ
――そういった物語に、ご自身の体験が反映されていることはありますか?
劇中で得太といぶきの母親のセリフとして、抑圧された環境にいながらも「声出して笑え、試しに笑え、無理でも笑え」と子どもたちに教える言葉があります。これは、僕の母親の口癖をヒントに書いたセリフです。僕の母親は、父親が会社をつぶしてしまったために、貧しくて大変な苦労をしていたんですが、そんな姿を子どもには見せずに「ケ・セラ・セラ、明日は明日の風が吹く」といつも言っていました。学校で嫌なことがあって、俺がウジウジして家に帰って来たときなんかは、「明日は明日の風が吹くから、考え込んじゃいけないよ」とよく言ってくれましたね。母を思い出すと、焼け石に水のような対策かもしれないけれど、無理にでも試しに笑ってみると、少しだけ肩の荷が軽くなるような気もしています。
――主人公の得太役は、山田孝之さんが演じています。監督として、山田さんを撮ってみていかがでしたか?
得太という役は、舞台では僕が演じていました。どうしようもないチンピラを演じたいと思って、自分に向けて当て書きをしたんですが、今回はそのどうしようもないチンピラを演じている孝之を、ぜひ見たいと思いました。孝之が得太を演じてくれたことで、この映画ができたと言ってもいいぐらいなので、彼が引き受けてくれて本当にうれしかったですね。撮ってみて印象深かったのは、得太が首に下げているお守りの中身に触れるクライマックスのシーン。孝之は「得太はそのお守りを何年も開けていないはずだから、自分もそれを開けない」と言って、本番までお守りの中身に触れることなくそのシーンに挑み、何かに憑かれたような芝居を見せてくれました。僕だったら、きっと本番前に中身を確認したくなってしまっていたでしょうね。分かってはいましたが、あらためてすごい俳優だなと思いました。
2021年6月4日(金)公開 R15+
配給=AMGエンタテインメント
原作・脚本・監督/佐藤二朗 出演/山田孝之 仲里依紗 坂井真紀ほか